作品調査8

ヴェラム作品と比較するために紙に描かれたエイレットの原画を観察しました。

エイレットの作品はほとんどがヴェラムに描かれたものですが、キューでは紙に描かれた原画も4-5点収蔵しています。
その一つであるチューリップは1740年、エイレットが32才の頃に描かれた作品です。つい自分の年齢と比較してしまい、ため息が出ます。現在見ることのできるエイレットの作品は、ほとんどが晩年までの15年間に集中しており、若い頃に描かれたこの紙作品はかなり珍しいようです。

この作品のチューリップは大変大きく立派な花をつけています。作品自体も比較的大きい方です。1786年のポートランド博物館の記録から、ポートランドの公爵夫人のために描かれたものであることがわかっています。


自信に溢れる情緒豊かな描写から、いつまでも目が離せません。やはりエイレットの作品には人を惹きつける力があるなぁと、感嘆させられます。
花の白い部分にも陰影がしっかりと施されています。形を正確に描写するためのデッサンの基礎がしっかりしていないと描けません。

チューリップはたくさんの作家に描かれている植物なだけに、その中で埋もれない魅力を出すのは難しい題材と言われています。
この作品は、私の知る限りでは最高のチューリップです。

Tulip-Baquet rigaux optimus 


Georg. D. Ehret 
1740年
483 x 305 mm

©︎ The Board of Trustees of the Royal Botanic Gardens, Kew



この当時はヴェラムに比較するとまだ紙の品質が低かったこと、また高価なヴェラムを用いるのが当時の画家や依頼主のステイタスであったことを伺っています。
もっとも、この素晴らしい作品に関しては、当時の紙を十分魅力的に使いこなしているように見えますが…。それでも細かな部分についてエイレットの紙作品とヴェラム作品を比較してみると、やはりヴェラムの方が細密描写に優れ、顔料の発色も鮮やかに感じられます。

またこの作品は特に紙の変色が激しく、作品周囲に小さな破れが見られます。一見すると紙の方がヴェラムより劣化しやすい印象を受けますが、エイレットの別の紙作品は美しい状態が保たれているものもあるため、劣化を左右するのは環境要因が大きそうです。


個人的な好みでは、真っ白な美しい紙よりも、劣化してシミだらけになっている作品の方がなんとなく歴史的価値が加わって魅力的に見えてしまいます。多くの人々に好まれて繰り返し鑑賞されてきた時の流れを実感できるからかもしれません。
真新しい美しさを保つために劣化を防ぎたいと思う反面で、ときに劣化自体に美しさを感じることに矛盾を感じます。
ふと、女性の加齢と似ているのかも…と思わされました。



Plants on Vellum

ヴェラムに描かれた植物画 ー作品調査と実験制作ー

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