作品調査6
ヴェラム作品に余白を継ぎ足す保存修復方法についてご紹介します。
2012年のキューの保存修復報告には、描画が作品の端まで施されている作品に対して、別のヴェラム片を継ぎ足して余白を拡張したと記述されています。
報告書の文章だけでは雲をつかむようでよく分からなかったのですが、実物を観察してやっと意味がわかりました。
新たに拡張された部分は展示用の窓枠からは見えないようになっています。額装を解除し、四枚重ねのマウント台紙を開くと余白を拡張された作品が紙で抑えられています。別の保存修復方法である織糸のアタッチメントを作品の周囲に接着する方法では、描画部分を傷つける恐れがあるため、この方法が選ばれたようです。
言葉で説明するのが難しく、画像と一緒に説明されてもまだピンとこない仕組みではないでしょうか。
実際のところ、実物を見てもかなり複雑な仕組みになっています。作品の裏側を確認しても良いかと伺ったところ、いつもは優しいスタッフに慌てた様子でNOと言われてしまいました。
上の画像は作品右下のコーナー部分の拡大図です。新しいヴェラムと2-3mmの重なりで接着されているそうです。チョウザメ膠が使用されたというこの接着部分の処理がかなり気になっていました。
新しく接着させられたヴェラムには、ボーンホルダーというヘラのような道具で凹みを作った跡や、千枚通しで穴を開けた跡が見えます。
このような細やかな保存修復方法によって、ヴェラムの自然な伸縮が許され、適切な湿度管理のもとでは作品に歪みや波打ちが生じないようになっています。
他に観察したいくつかの方法と比較すると、この作品はかなりの高待遇を受けている印象です。修復にかけられる予算や展覧会での需要により、その都度事情が異なるのだろうと感じました。
Amaryllis belladonna
Peter Brown (1770-1791)
295×231mm
©︎ The Board of Trustees of the Royal Botanic Gardens, Kew
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