作品調査4
以前から気になっていた、18世紀の植物画作品にみられる緑色の表現についてご紹介したいと思います。
下の作品は648点あるタンカー・ビルコレクションのうちのひとつです。八重のハイビスカスをヴェラムに描いた、18世紀半ばの作品です。残念ながら作者は不明ですが、細密描写や陰影表現から、比較的経験値の高い者によって描かれていると言えるのではないでしょうか。
枠外にはインド原産種を栽培したものと記述があります。物珍しい植物であったことに加え、絵画として映えやすい華やかさも手伝って、描画にも力が入っている印象です。
作品は下の画像のように、台紙に直接接着されたまま未修復の状態で保管されています。ヴェラムの伸縮のせいで台紙ごと大きく歪んでしまっていますが、細かなシワがないために顔料の剥落なども見られず、比較的よい状態で保存されています。
ただし、台紙背面に明らかな変色が見て取れるため、制作当時は全体的により鮮やかな作品であったと想像されます。
Hibiscus rosa-sinensis
作者不明 (18世紀)
©︎ The Board of Trustees of the Royal Botanic Gardens, Kew
さて、この作品で注目したいのは、緑色部分に必要以上の展色材が使用されている点です。
同じコレクションの中には、作家が未熟であるがゆえに緑の表現に違和感を生じさせている作品がみられます。特に緑の土系顔料は他の顔料よりも多めに展色材を必要とするため、作家の技量が足りずに調節がうまくいかなかったのだろうと考えていました。
しかし、この作品に関しては経験値の高い作家が描いたように思え、意図的に展色材を多く使用したのかも知れないと考えるようになりました。油彩画分野でも、七宝焼のような「エマイユ」と言う表面状態が作られることがあります。
ハイビスカスの葉を拡大した下の画像は、ヴェラムの繊維がまるでツルツルの透明なガラスに覆われているように見えます。顔料の粒子はもはや見えません。
実際のハイビスカスの葉には艶やかな光沢があるため、作者はこの質感を表す目的で展色材を多用したのかもしれません。
技量不足と考えてきた案件も、当時の表現方法のひとつである可能性が見えてきました。今後、他の作品でも注視していきたいと思います。
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