ウィリアム・カウリー訪問

ウィリアム・カウリーの工房を訪れ、製造工程を見学させていただきました。お忙しい中、支配人や職人の皆様に貴重なお時間をいただきましたこと、心から感謝申し上げます。


カウリーではほとんど全ての工程が手作業で行なわれています。

羊皮紙製造の流れをごく簡単にご説明すると、原料皮の選別、消石灰溶液浸け、脂肪の除去、洗浄、毛の除去、枠張り、拡張、乾燥、両面を削りながら拡張、乾燥、枠から切り取り、品質確認といった感じです。
用途によっては途中の工程に、煮沸、接着、脱色、炭酸カルシウム液の塗布、軽石での研磨、サンドペーパーでの研磨などが追加されます。



実際に表面を削る体験をさせていただき、想像以上に力のいる作業だということがわかりました。肉側、毛皮によって削り方も工程も異なります。どちらも同じ半月型の刃物で削りますが、肉側は熱湯をかけながら、毛側は皮を剥くようにかなり強い力で削ります。


一枚一枚で状態が異なり、その一枚をとっても均一な厚さではありません。季節や天候によっても対応を変える必要があるため、機械化や文章化ができないそうです。この道20年の職人さんを始め、私が訪れた際には三人だけで分担して作業をされていました。

大量生産とは程遠い内容で、一枚を作るのに最低6週間、長くて10週間がかかるそうです。それでも世界に誇る品質を保つため、作業効率を高めたり機械を導入するようなことは微塵も考えていないようでした。

製品検査を担当している支配人は、大変気さくでユーモアのある人物でしたが、羊皮紙の品質に対しては並々ならぬ厳格なこだわりを感じました。事実、ヴェラムへの細密描写を追求する植物画家にとって、カウリーの製品は選択の余地のない逸品でしょう。ただし…、現在私が用いている製品の2倍のコストがかかります。


 

製品について、植物画家が好んで用いる、ケルムスコットという特別なタイプのヴェラムを中心にお話を伺いました。

ウィリアムモリスが好んで使い、かつてケルムスコット地域で製造されていた羊皮紙を指します。これまでに用いたアメリカ、ドイツ、フィンランドの羊皮紙と比較すると、描き心地は群を抜いていると実感しています。

この製品は、細密描写を追求する作家の要望に特化している印象です。サンドペーパーで均一に磨かれているため、私が行なってきた下準備がすでに完了していることになります。とても真似できないような美しい仕上げなのですが、裏を返せば、制作の一部を工房に依存するので表現の可能性を狭めることにもなりかねません。例えば、サンドペーパーの目の細かさや研磨度合いは絵具の発色を左右するため、作家側にも微妙なこだわりがあります。また、一度研磨すると元の状態には戻せません。

この辺りはしばらく使用してみないとわからないので、コスト面を含めて、時間をかけて検討したいと思います。



気になっていた原料の件は、食肉加工後に大量に廃棄される皮の中から、少量を選りすぐっている状況とのことです。とりあえずほっとしていますが、作品に動物の皮を利用している事実には変わりないことを心に留めておきたいと思います。

ウィリアム・カウリー社 (William Cowley)


Plants on Vellum

ヴェラムに描かれた植物画 ー作品調査と実験制作ー

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