作品調査3
画像掲載の許可をいただいたので、どのような調査をしているのか作品と共にご紹介したいと思います。
上の画像はアン・リー (Ann Lee) という作家による作品の状態です。
ヴェラム作品の周囲に和紙のアタッチメントが接着され、台紙に緩く留められています。紙に書かれた作品を含む165点のアン・リーコレクションの修復は、2013年に完了していますが、特に損傷の大きいコレクションであったためか、修復後もヴェラムの波打ちが目立っています。(あまりに酷い紙作品に対しては、大英博物館から修復技術の提供を受けたそうです。)
展示用の窓付マウント台紙に納めると、下の画像のように和紙部分や作品の端が隠れるようになっています。この作品は比較的シンプルな修復が施されていました。
作品の状態や修復が施された年代によって、少しずつ異なる方法で修復・マウントされています。
Antholyza sp.
Ann Lee 1778
412 x 210 mm
©︎ The Board of Trustees of the Royal Botanic Gardens, Kew
このような作品に対して私が何を行なっているかというと、おおよそ以下のような項目を調べています。
1) 制作年・作者・植物名の確認
2) マウント方法・修復方法の確認
3) 作品・付属物等の、サイズ・厚さ計測
4) カメラと顕微鏡による作品撮影
5) 羊皮紙の種類・状態の観察と推測
6) 描画部分の顔料・技法の観察と推測
7) 描画技術や構図などの美術的評価
8) 情報の整理、先行研究との照合
9) サンプル作成・作品との比較検証
多くの作品に対してこのプロセスを繰り返すと、顔料の特徴、羊皮紙の表面状態、当時の技法などの全体像が少しずつ見えてきます。ここから有用な情報が得られれば、帰国後の自作への応用を経て、最終的には考察にもって行きたいところです。
しかし、実際のところ山あり谷ありで、作品の表面状態が当初イメージしていたものと異なるなど、新たな資料から学び直す必要も出てきました。一人で対処できない場合には、保存部長や羊皮紙製造者、専門家の方々に助言を求めながら進めています。
作品を直に観察するとついあれもこれもと気になる事が増えてしまいますが、私にはとても手に負えない奥深い世界だということがわかってきました。自分がするべき事は何なのかよく頭を整理して、目標を絞っていきたいと思います。
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