作品調査2
Kew付属図書館の二階には、煉瓦作りの貴重図書の保管庫が併設されています。この中には、紙に描かれたたくさんの植物画と一緒に、羊皮紙の植物画作品が収蔵されています。近年建てられたばかりの比較的新しい設備で、室内の温度や湿度環境が調節され、厳重な防火システムが完備しています。この日は設備の点検業者が来ていました。
閲覧室に向けてディスプレイ用の窓が設置されており、図書館の来館者が観賞できるようになっています。中のディスプレイは、キュレーターによって定期的に展示替えが行われます。
2日目の調査では、チャーチコレクションの中から修復の完了した3点を観察しました。
まず、絹織物片を用いて台紙に留められている作品を拝見しました。絹織物の伸縮性を利用して、ヴェラムの伸縮に対応させるという修復方法です。
次に、作品周囲に新たなヴェラムの余白をチョウザメ膠で接着し、作品を拡張させる修復方法を拝見しました。この二者は主に以前記載した報告書に紹介されていた技法です。文章で理解するのと実際に拝見するのでは大きな隔たりがありました。
念願が叶い、やっと修復の細部を観察することができて感無量でした。本当は一日中作品を眺めながら祝杯をあげたい気分です。そもそもKewでの研修自体が私の20年来の夢だったことを思い出しました。せめて誰かとハイタッチしたいところですが、図書館のスタッフ以外誰もいません。
想像以上に調査に時間がかかっているので、感動に浸っていられず、何事もなかったかのように粛々と作業を進めます。
3点目に、上記2点とは別の修復方法が施された作品として、ゲオルグ・ディオニソス・エーレット (Georg Dionysius Ehret, 1708-1770)という、ルドゥテと並ぶ巨匠の作品を観察しました。これまで観察した作品とは比較してはいけないほどの技術力でした。美術的観点から後日改めてご紹介したいと思います。
前述の二点と同様に、細やかな、気配りに満ちた修復が施されていました。作品には以前ご紹介した「喰い裂き」の技術を用いて和紙 (おそらく薄美濃紙) が控えめに接着されていました。日本の和紙を様々なところで目にすることができ、ずいぶんと信頼が置かれていることに誇りを感じます。
和紙以外には作品が台紙と接触しないよう、初めてみるような構造でマウントされていましたが、額装を解除して台紙をめくって確認しない限りは、この構造には気づけないようになっています。華々しい展覧会場では想像のできない、舞台裏での苦労を見ることができました。
まだ織糸のアタッチメントがつけられた修復済み作品を拝見していないので、次回も楽しみにしています。
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