作品調査1
今日はキュー植物園付属図書館での作品調査初日でした。
キューの羊皮紙作品は湿度管理や取り扱いが厳しく、許可を得た研究者にのみ閲覧が許されています。
日本からの閲覧申請にあたり、羊皮紙の専門家の方に示唆に富んだご助言とご協力をいただいたことにまず御礼申し上げたいと思います。
また、文化庁の後ろ盾によって本調査が実現しましたこと、この場を借りて御礼申し上げます。
キュー植物園の北端にある附属図書館では、キュレーターと保存修復部門の責任者が温かく迎えてくださいました。気さくな保存修復部長から貴重な情報をたくさん教えていただき、これまで疑問に感じていたことが次々に明らかになりました。
例えば、羊皮紙保存の適温は19度、湿度は55%とされているそうで、先日大英図書館で確認した通りでした。キューの作品収蔵庫もこの環境に設定されています。湿度50-60%の範囲内に留めておかないと伸縮が生じるそうですが、もともと資料が保存されていた環境を加味して徐々に新たな環境に慣らす必要があります。
また、先日拝見した大英図書館の羊皮紙の修復方針について伺ったところ、 現在の方針には賛成できないとの答えが返ってきました。羊皮紙を平らに伸ばさずに保管することで劣化や顔料の剥離が進み、これまでに多くの展示品が損傷を受けているとのことです。羊皮紙を扱うという共通点から、両施設間ではきっと強い連携がされているだろうと想像していたのですが、意外な意見の違いを知る事になりました。実際のところは、資料の作られた目的が異なるので、どちらが正しい方針だとは一概には決められない問題なのだろうと感じます。
上記の羊皮紙作品の歪みを平らに伸ばす方法に関して、キューでは私の想像を越えた画期的な機器を導入していることがわかりました。特注のアクリルケースの中に作品を設置し、ケース内を98%に加湿して作品に湿度を与えながら、同時に下面から空気を吸引することで作品を平らに伸ばすそうです。
以前読んだ報告書にはこのような詳細までは記載されておらず、ずっと気になっていた部分です。画像でご紹介できず残念ですが、アクリルケース自体は1m×1.3mほどの大きさで、25年前から導入されているそうです。
保存修復部長と別れた後、いよいよ目的の作品調査を開始しました。事前に型式等を伝えて許可を得た測定機器を用い、スタッフの監視のもとで作品を取り扱います。
キューでは800点の羊皮紙作品を所蔵しています。事前にお願いしていた40点の作品リストの中から、今日は1700年代に描かれた未修復の作品5点を調査しました。
ハイビスカスやパッションフルーツなど、当時のイギリスでは珍しかっただろうエキゾチックな植物が扱われていました。羊皮紙自体の劣化状態は想像していたほど悪くはありませんでした。どの作品も白くて滑らかで、穴や裂けなど見当たらず緩やかなうねりやシミが見られる程度でしたが、キューではこの状態も劣化として懸念しているようです。確かに、美術作品として展示を前提に考えた場合には不都合かもしれません。
その他、顔料の種類や筆致の傾向等、マニアックなご説明は割愛しますが、とにかくとても楽しかったです。飲まず食わずで一日中調査に費やしました。最終的にはキュレーターに、閉館時間が過ぎているのでそろそろ帰ってもらえないかと聞かれる始末でした。
突然帰る事になったため、ぼんやりしてバスを乗り間違えました。
次回はもう少し冷静に作品を拝見したいと思います。
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