作品調査43
V&Aでエイレットの残りのヴェラム作品を閲覧しています。分量が多かったため、数日かけてやっと記録し終えました。まだ見たい作品はたくさんあるものの、これでロンドンでの作品閲覧はひとまず終了です。
休憩の合間に、以前から気になっていた常設展示のポートレートミニアチュールを観察しました。
ポートレートミニアチュールとは、ヴェラムや象牙に水彩絵具で描かれた小さい肖像画です。画像だけでは大きな作品に見違えるほどですが、どの作品も3〜10㎝ほどの大変小さなものです。ペンダントにして首からぶら下げられるよう装飾が施されているものもあります。
1500年代からこのようなミニアチュールが制作され、初期の頃は特に写本の影響からヴェラムが用いられています。
尋常でない細かさで描かれており、こんなに小さく細密描写に優れた絵画は初めて見ました。下の画像の作品はヴェラムに炭酸カルシウムと膠を混ぜた下地を塗布した上で彩色されています。裏側にはなぜか慣例的にトランプのカードが接着されています。
これまで閲覧してきた過去の植物画の描画面にはほとんどヴェラムの肉側が用いられていますが、ポートレートミニアチュールには光沢のある毛側に描画されたそうです。
Self-portrait
Nicholas Hilliard
1577
Victoria & Albert Museum
下の作品は18世紀の作品で、象牙を薄くスライスした板に描かれています。象牙は1700年以降にポートレートミニアチュールに用いられるようになりました。ヴェラムよりもさらに細かく滑らかな描写が可能な反面で、ツルツルしている面に水彩絵具を定着させるのは難しく、画家たちは様々な工夫を凝らしたそうです。
Self-portrait
John Smart
1797
Victoria & Albert Museum
あまりに細かな描写がされているので、どんな筆を使っていたのかと不思議になりますが、展示された道具類を見る限りでは現代の筆とそこまで変わらないようです。
これらのミニアチュール作品には、プラスチックのような滑らかな表面を活かしたヴェラムの可能性を見ることができました。
繰り返し見てきた植物画作品よりも、離れた分野の技法が新鮮に映り、今後の展開の糧になりそうです。
ポートレートミニアチュールは、ウォーレスコレクションやウェリントン美術館など他の施設にも数多く展示されており、当時流行したスタイルである事がわかります。写真のなかった時代には肖像画としての需要が高く、細密描写に優れた絵師がたくさん生まれたのでしょう。
毎回このような細かい描き方をしていては命が縮まりそうですが、植物画でもこのようなミニアチュール作品を試したら面白そうだと感じました。
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