RCP薬草園
イギリスでの学術機関と現代植物画の結びつきを学ぶため、500年の歴史を持つ内科医の専門団体、ロイヤルカレッジオブフィジシャンズ (Royal College of Physicians) を訪れました。
この付属薬草園の植物を描いた図録が2018年に発行されていることを知り、著者であるヘンリー・オークレイ博士にお話を伺いました。
この企画は、かつてRCPから出版された本の400年記念を祝う目的で発案されたそうです。当時から伝わる薬草を植物画に描き起こした図録が作成され、学内で作品展が行われました。
イギリスでの現代植物画の展示は植物園や王立園芸協会が担っており、実際のところ大学ではほとんど行われないそうです。400年の出版記念という名目があっての企画であり、極めて稀有な事例と言えます。
収益を目的としていないため作品展への来場者は多くなかったそうですが、個人的には、現代植物画が社会に貢献できる可能性を示した貴重な例だと考えています。
案内していただいた薬草園は、所狭しと植物が栽培されながら美しく手入れが行き届いていました。1000種類以上もの薬草の中に、私の好きなドクダミも栽培されています。
オークレイ博士は庭園の植物をひとつひとつ手にとって、「これは虫下しに使われた効能の強い植物で、のちに中国から使いやすいタイプの同種が現れるまでは…、…この植物は発酵させることで成分が生成されるため、最初に発見されたのは牛が…、…マダガスカルでこの植物が発見されたことで小児ガンの70%は…」と野外講義をしてくださいました。
もともと薬草が好きなので興味深く伺っていたつもりなのですが、難しい部分は右から左にすり抜けて行きました。ひとつひとつの薬草に、このような複雑な歴史があるとは驚きです。
博士は話しの合間に薬草の葉を摘み取ると、おもむろにジャケットに挿してブローチにしていました。おしゃれな遊び心が、厳格な施設と対照的でした。
学内で会う人誰もが声をかけてくる、親切で魅力的な紳士でした。
現代植物画の図録も、オークレイ博士とその友人によって参加者が募られ、ほとんど無償で製作されたものだそうです。学術機関の協力を得ることができたのも博士の人望のおかげだろうと感じました。
このような企画を達成するには、「適切な人間」を友人に持つことが大切だと教えていただきました。謙遜にも聞こえますが、実際に80人以上の作家がボランティアで参加しているそうです。
結局のところ一朝一夕で参考にできるものではなく、人材やタイミングが揃ったおかげで運良く開催された、珍しい企画であることがわかりました。
改めて、コミュニケーション能力の大切さを感じています。
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