作品調査15

自作の修復が完了しました。

複雑な額装を解除して素の作品を観察すると、ガラス越しに把握していたよりもたくさんの傷や顔料の剥離が見つかりました。
顔料の剥離箇所に再彩色を施し、非描画部分の傷は細かなサンドペーパーで磨いたあと、水を塗布して滑らかにしました。


上の画像の傷を拡大してみると、下の画像のように鋭いもので表面が削られていることがわかります。
額ごと落ちてガラスが割れたと聞いているため、ほとんどの傷はガラスの破片が原因と考えられます。えぐり取られたような跡や、突き刺さったような跡もあり痛々しいです。
目立つ傷は、すでに別の修復者によって再彩色されている部分もありました。自作を他人に彩色されるというのは滅多にない経験で、これもまた少々複雑な気分です。
前の修復者に気づかれていない剥離もあったため、できる限り目立たなくなるように再彩色しました。
残念ながら、非描画部分の傷は完全には直せませんでした。


このほかにコーナー部分のシワを直しました。

持主の管理に起因する前述の損傷に対して、ヴェラムのシワは制作者側の責任が大きいと考えています。
この作品を描いた3年前、まず始めにヴェラムの4辺をパネルの縁に糊付けし、さらにガンタッカーで固定していました。その後、梅雨や冬の乾燥など四季の湿度変化を経ても比較的ヴェラムの伸縮が安定していたため、糊だけで固定できていると考えてガンタッカーの針を抜いてしまいました。(金属製の針は展示では見栄えが悪いのです) しかし、実際には糊だけでは湿度変化による伸縮に耐えられなかったようです。


上の画像はコーナー部分にだけ湿度を与えてヴェラムを伸ばし、部分的にパネルから剥がした状態です。その後ヴェラムを引き伸ばしながらパネルに固定し直します。こんな状況になってしまい作家として情けないですが、ヴェラムの性質を知る良いサンプルになりました。
今直しておかなければ、シワはより大きくなるばかりか、いずれ他の部分にも歪みが生じただろうと思われます。作品を直せる機会があったことが不幸中の幸いでした。

今後のヴェラムの準備には、環境の変化を想定した十分な強度を確保したいと思います。

Plants on Vellum

ヴェラムに描かれた植物画 ー作品調査と実験制作ー

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