作品調査5

ルイス・エヴァンズコレクションを観察しています。
本として綴られていた66点のヴェラム作品で、2013年に修復が完了しています。
エイレットを含む数名の作家によって描かれていますが、大半が作者不明の作品です。

根や花の断面図、分解図が加えられ、全体的に植物の記録を目的に描かれている印象です。

修復時の情報として興味深いのは、顔料の剥落部分を再彩色している点と、変色の激しいヴェラムのクリーニングを行っている点などです。これまでの修復の報告書には見られなかった内容です。このコレクションは劣化の程度が激しい訳ではないのですが、劣化のバリエーションが豊富なので、様々な情報が得られて面白いです。


一人の修復担当者が66点もの作品を4ヶ月弱で修復しており、これまで拝見した方法に比べると簡素なマウントが施されています。作品が露出したまま別の作品と重ねて保管されており、描画面が重ねられた台紙に接している状態です。顔料が擦れないのか心配になりますが、元々綴られていた状態だったため、このような修復方法に収まったようです。


ルイス・エヴァンスコレクションのうちの一つ、トケイソウが描かれた素晴らしい作品をご紹介したいと思います。

残念ながらこの作品は、修復前の保存状態があまり良くありません。汚れや折れ跡が描画部分にまで及んでいます。




作者は不明なのですが、個人的にはエイレットの作ではないだろうかと想像しています。手慣れた筆さばきや、使用されている顔料、用いられている筆の特徴、他にも何点かの共通点が見られます。ただし、エイレットの特徴的なサインがないので定かではありません。


どちらにしろ熟練度の高い作品を拝見すると、どうしても観察時間が長くなってしまいます。

訴えかけてくる作者の意思のようなものが強く、他の作品とは異なる吸引力を感じました。変な話ですが、作品側から嬉々として色んな事を話しかけられているような感覚です。時代を越えても生きている作品なんだなと感じました。以前にご紹介した別のエイレットの作品からも同じような印象を受けました。

記録として機械的に描画された作品も少なくない中、このような余情溢れる作品に出会えて嬉しいです。


Passiforia

313 x 222 mm

作者不明 (18世紀)

©︎ The Board of Trustees of the Royal Botanic Gardens, Kew 


いつか後世で誰かに閲覧してもらえるチャンスがあるなら、このように語りかける事ができる作品を制作していきたいと願っています。


Plants on Vellum

ヴェラムに描かれた植物画 ー作品調査と実験制作ー

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