ルドゥテのヴェラム作品
先日、ヴェラムに描かれたルドゥテの原画や零葉と呼ばれる中世の写本を見せていただく機会に恵まれました。
所有者の方には研修に向けた貴重なご助言もいただき、心より御礼申し上げます。
備忘録として、感じたことを記しておきたいと思います。
今回はピエール・ジョセフ・ルドゥテ(1759–1840)の晩年に近い1837年に描かれたチューリップの原画を拝見しました。私が普段使用しているヴェラムに比較すると薄く、クリーム色で、子牛の皮らしい毛穴や血管の模様が見えました。描画面は毛側で、ツルツルに磨かれているという訳でなく荒い部分も見受けられました。主に肉側を削ってかなり薄くしているようです。
二時的な支持体には固定されておらず、裏返して作品を拝見すると全体的に透明の物質が塗布されていました。湿度変化の影響を軽減するための策かもしれないので、試作を作ってみる価値がありそうです。同様の処理を施された作品がないか、キューの収蔵品も注視してみます。
縁部分を中心にうねりが見られ、描画部分は比較的平滑でした。現代の水彩絵具に比較すると当時は顔料の選択肢が狭いだろうことを感じさせられました。作品完成後にうっかり水のついた指で触ったような顔料の剥離が見られました。そのほかに、作者があえて顔料を剥離させて白さを表現していると思われる部位が各所に見られました。水で洗い落とすのではなく、硬いもので絵具を削り取ったような方法です。こちらも試作での検証が必要そうです。
描画技法に関しては、全体的に薄塗りで、おそらく展色材のアラビアゴムの分量が多い印象です。ところどころ光って濡れ色に見えています。鉛筆での下描きの上から彩色が施されており、転写でついた線ではなく、彩色の補助として軽くアウトラインをとったような線でした。素早く手慣れた筆運びで描画され、比較的大きな含みのある筆を使用している印象を受けました。
厚さ測定や顕微鏡観察など時間をかけた調査が許されれば、より細かなことが読み取れそうです。
他にも数点の作品を拝見しました。
おそらく羊の皮に描かれた楽譜は、日本画の顔料に似た粒子の大きい天然顔料が施され、剥離も見られましたが、当時の状態を良好にとどめているのだろうと感じました。羊皮紙全体に大きな歪みとうねりがあり、肉側と毛皮両方にインクと顔料での彩色が施されています。張りがあって丈夫で柔らかく、楽譜として日常的に使用されてきた感がありました。
もう一つ拝見したヴェラム作品は磔刑が描かれた作品で、金が施された鮮やかな小作品です。こちらは額装された状態での鑑賞でしたので、細かい点はわかりませんでした。
紙に描かれた作品には、相当な細密さと塗り込みに執念を感じる作品もありました。当時の顔料の状況や道具の質を推し量るには、ヴェラムに限らず多くの作品を調査していく必要がありそうです。
キューでの作品調査の前に、どの様な観点からアプローチすれば良いか参考になりました。作品調査から得られた仮定に対し、試作を作って状況を確認することで、信頼性の高い推測を得たいと思います。
例えば、下の画像は実験的にヴェラムの波打ちを検証するための試料です。上はヴェラム、下は鹿の羊皮紙です。湿度の与え方、部位や厚さによっても波打ちの程度が変わります。思い込みのないよう慎重に調査を進めたいと思います。
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