『薬物誌』和訳本
先日閲覧したディオスコリデスの『マテリア・メディカ』に和訳本があることを知りました。
ウィーン写本に記されている内容が全くわからなかったので大変助かりました。和訳された本文を読み、この本がいかに優れた視点で書かれているかがわかり感動しています。
2000年も前に書かれた内容とは思えないほど、理路整然としています。
先行研究を再検証するばかりでなく、ディオスコリデス自身の実践的な経験を基に書かれています。植物の特徴や生態と共に薬効や使用法が詳細に書かれており、当時のご時世か、妊娠や毒に関連する効能が比較的多い印象でした。なかには現代でも飲まれている薬用酒や、カブの塩漬けのような身近なものも紹介されていて親近感さえ湧きます。医学や薬学の専門家でなくとも、悠久のロマンが感じられる興味深い内容です。
ただし、図の植物と解説文が一致しないものや、さすがに現代ではありえないような怪しげな使用法、悪魔避けなどの薬効も記されています。
小川県三他著『ディオスコリデスの薬物誌』242頁から
『マテリア・メディカ』の英訳本が作られたのは17世紀で、ジョン・グッディヤーという植物学者によって訳されたこの手書きの英訳本は、その後数百年もの間ケンブリッジ大学に埋もれていたそうです。有名なプリニウスの『博物誌』の英訳版が17世紀に出版されて人気を博したのに対し、『薬物誌』は出版されることなく、貴重な古典に記された知識が一般に広がることはありませんでした。
20世紀になってジョン・グッディヤーの英訳本が再注目され、当時の文体を忠実に保ったまま出版されました。それをもとに日本でも和訳本が出版されたようです。
英訳本『The Greek herbal of Dioscorides』の出版は1934年、和訳本『ディオスコリデスの薬物誌』の出版は1983年となっています。
さすがに2000年も前の本となると、翻訳や出版ひとつとっても複雑な歴史があると感じました。
そもそも、現代まで語り継がれている事自体が奇跡的なのかもしれません。
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