最古の植物画

もう研修は終わったのですが、用事でロンドンに来たため、せっかくなので資料を閲覧しました。


キュー図書館には、『マテリア・メディカ』(De Materia Medica libriquinque) の写本のファクシミリ版が収蔵されています。本物はウィーンにあるオーストリア国立図書館に収蔵されています。

『マテリア・メディカ』は、古代ギリシアの医師ペダニウス・ディオスコリデス( Πεδάνιος Διοσκορίδης、40年頃 - 90年)によってA.D.1世紀に書かれた薬物誌です。この本を元に製作されたウィーン写本には、植物の図版が加えられています。(ややこしいですが、マテリア・メディカという題名も後から付けられたラテン語名です。)

約400ページ全てに羊皮紙が用いられているため、大変重量感のある書物です。この写本に含まれる図はヨーロッパの植物を描いたものとして現存する最古の植物画と言われており、最も古い図で515年との記載があります。今から1500年前、日本では聖徳太子が生まれるさらに前に制作された作品と考えると、大変感慨深いものがあります。


ウィーン写本には400種以上の植物画が含まれています。観念的なものばかりではなく、実物をよく観察して描かれたような迫真に迫る図も見られました。
薬草を見分ける目的で描かれているため、葉の鋸歯が正確に細かく描写されていたり、多くの図で根が描写されています。根や葉に比べて花の薬効は限られているせいか、花を美しく描こうという意図は感じられません。
これぞ、元祖植物画!といった印象です。
現代植物画のように洗練されてはいないのですが、正確な描写に迫ろうとした古代の人々の純粋な気迫が感じられました。
直前に現代植物画の傑作展を鑑賞したせいか、1500年を隔てた両者の対比が際立って感じられた次第です。


羊皮紙に関しては、用いられている動物の種類もウシではないようでした。流石に古い時代のものなので非常に粗く、酷い変色や歪み、シワ、波打ち、穴などが目立ち、後の時代で修復されて継がれている部分も多くありました。作品にも変色や激しい剥落が見られました。それでもおそらく、1500年前の本としては状態の良い方かもしれません。
文字情報が多く、何が書いてあるのか気になるところなのですが、古代ギリシャ語やアラビア語、もはや見たことのない謎の言語で書かれていて全く読めません。


冷たい雨が続きすっかり冬の気候ですが、植物園内ではまだ紅葉が見られました。イチョウが鮮やかです。
ほんの短い滞在で名残惜しいです。


Plants on Vellum

ヴェラムに描かれた植物画 ー作品調査と実験制作ー

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