作品調査10
先日サイモン・テイラー (Simon Taylor 1742 -1796) のヴェラム作品を拝見しました。
キューの学芸員さんが、これまでほぼ誰にも閲覧されていないコレクションがあるよと勧めてくださり、この日を楽しみにしてきました。
いざ書庫から出してもらうと、想像以上に巨大な本で驚いてしまいました。
60×45cmほどの重厚感のある革張りの本で、表紙と裏表紙には、豪華な縁どり模様と、持主であったビュート卿の紋章が金箔で刻印されています。背表紙には同じく ‘Plants by Taylor’ と刻印されています。三方金と呼ばれる小口の金塗装が施されており、表紙裏・裏表紙裏はマーブル染めさています。
中身は全て台紙にマウントされたヴェラムの原画だけで構成されていて、文章が書かれたページはありません。
47作品が綴られている1760年頃の本で、作品に多少の波打ちはあるものの保存状態は良好です。
Cisutus lauliforius (部分)
Simon Taylor
50×35cm 1760年頃
©︎ The Board of Trustees of the Royal Botanic Gardens, Kew
これらの作品は第3代ビュート卿の指示で制作され、主に当時のキュー植物園の植物が描かれているそうです。
本来はサイモン・テイラーによる684点のヴェラム作品を綴った全15巻が存在したそうですが、現在ではこの1巻だけがキューに収蔵されています。残念なことに約300点分の作品を綴っていた6巻分は、様々な人の手を経るうちに分割されバラバラに売り出されてしまったそうです。現在、自然史博物館やその他の施設の収蔵品を合計すると、もとの約半数の存在が確認されているとのことです。
サイモン・テイラーが700点近いヴェラム作品を制作したことにも驚きますが、特筆すべきはこれらが彼の20歳前後という大変若い時期に制作されていることです。作品の質から、卓越した描画能力の持ち主であることにも感嘆させられました。
無題 (部分)
Simon Taylor
50×35cm 1760年頃
©︎ The Board of Trustees of the Royal Botanic Gardens, Kew
作品には花の分解図が追加されているものが多く、植物学者の指導のもとに正確な描写がされている印象です。
私が閲覧した作品群にはバラやチューリップなどの華やかな園芸種はありませんでしたが、ネギ坊主のようなアリウムやセイタカアワダチソウのような細かい花が生き生きと的確に描かれています。
小さくて細かい花や、白い花を得意としていることが伺えます。
普通の作家なら細かい花も白い花もどちらも難しく感じられる題材ではないでしょうか。
Alyssum utriculutum
Simon Taylor
50×35cm 1760年頃
©︎ The Board of Trustees of the Royal Botanic Gardens, Kew
サイモン・テイラーは美術学校で専門教育を受けており、十代の頃に数々のデッサンコンクールで優秀な成績を修め、毎年連続して賞金を獲得していたとの記録があります。ビュート卿が彼の有能さを見抜いて植物画の世界に引き抜き、その後も裕福なパトロン達に恵まれたことが別資料から伺えます。
構図や奥行表現などに隙がなく、個人的にはエイレットよりも基礎的な描写能力が高いのではないかと感じます。
その割にエイレットやルドゥテほど後世に名を馳せておらず、別資料でもこの点があけすけに指摘されています。
彼の実力を考えると、現代でももっと評価を受けて然るべき作家ではないかと感じました。
まだごく一部の作品しか閲覧していないので、他の作品も調べてみたいと思います。
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